日本技術士会化学部会の2月度講演会は、上記題目で東大名誉教授・御園生誠先生のお話でした。先生は固体触媒の世界では大御所の一人で、学生時代は自分も固体触媒の研究室にいたので先生の事はよく知っており、この日はお会いできるのをたいへん楽しみにしておりました。
講演は、2015年のパリ協定の話やIPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:国連気候変動に関する政府間パネル)5次報告書の振り返りから始まりました。先生は冒頭で、「CO2と気候変動の因果関係はそう大きくないのでは」という立場であることを述べ、その立場からIPCCのデータの見方を説明されていました。
各国のエネルギー消費量とGDPの関係を自分で計算してプロットし、それが「環境クズネッツ曲線」のような挙動になる事を説明した図は、なるほどと思わせるものでした。ただし極大値に達した後に曲線が下がる(Uターン)かについては、「可能かもしれない」という慎重な言い回しでした。よほどの技術革新が無ければ(もちろん革新的技術ができればいいのですが)、GDPが伸びればエネルギー消費も増えるという正の相関は変わらないのではと私は考えます。したがって、いつまでも化石燃料に頼らないエネルギー政策(再生エネルギーベース)を進めていく必要が出てくるのではと思います。
講演の中盤は、LCA(Life Cycle Assessment)の視点に時間軸も含めて、開発が進んでいる新エネルギーについて評価する必要性について説明されていました。これについては全体として異論はありません。太陽光発電、電気自動車、水素エネルギーなどなど、現状の化石燃料と比較すると高コストである事は確かですが、原発を廃止し、再生可能エネルギーベースの社会を構築していくためには我々は何をしなければいけないのか、長い時間軸で考えていかねばならないと思います。
終盤では省エネ・節エネの話を中心に、持続可能な社会を作るにあたり化学がどの様な貢献ができるのかについて話が進みました。あるスライドに「More natural technology」という言葉がありましたが、これには大いに賛同したいです。化学の話ではないのですが、一例として河川の治水技術について話されていました。昔の河川技術に対し、近代に進められた河川の直線化の問題について言及されていました。なぜ日本の河川は直線化し、三面張り工法がどんどん進んでしまったのでしょうか。土木技術者、特に建設部門の技術士に意見を聞きたいところです。
先生の講演の冒頭で、上に記載したCO2の話と、さらに「化石燃料は今世紀中は問題ないだろう」という話がありました。ここには少し質問したいことがあり、少し長い質問をさせてもらいました。質問の概要は「CO2が気候変動の主因かどうかは別にしても、化石燃料資源をずっと先の世代まで残していくという観点から、化石燃料の使用量を減らすことは重要である。いずれは枯渇するであろう化石燃料に換わるエネルギーの開発を我々は進めていかねばならない。そこに少しでも貢献するべく、新エネルギー開発に関わる人たちは技術開発に従事している。化石燃料が今世紀中使用できるにしても、その後はどうするべきなのか」というような内容だったと記憶しています。
私の話の三分の二は同意すると仰っていましたが、新エネルギーへの移行をあまりにも早く急ぎ過ぎるのは得策ではないというのが先生の考えで、ある程度の速さで進めるべきという私の意見とはここが大きく異なるところのようです。「経済的に化石燃料が生産できなくなった時に、どこかの国がしゃしゃり出てきてドンパチ始めるのでは」という私の話には、そうなるかもしれないと先生のコメントがありました。
書きたいことはたくさんありますが、エネルギー問題は一筋縄ではいきません。政治・経済も絡んでくる話ですので、日本だけでどうにかできるわけでもなく、世界中で協力して問題解決を進めていかないとなりません。先生もそこは強調されていました。
エネルギー問題の事を考える時、いつも思い浮かべるのは「化石燃料が枯渇した時の世の中はどんなことになるのだろうか」という事です。昔何かでよんだイースター島の歴史の事も思い出します。基本的にpessimist(悲観主義者)の私は、悲惨な世界を想像してしまうのです。そうならない様、少しでも貢献したいとは思うのですが・・・・。