ブログにアップするのが遅くなりましたが、今回は横浜情報文化センターにて10月28日(水)に開催されました。横浜国大で開催の時は会場へ行くだけで大変ですが、今回は移動が楽でした。こんな勝手なことを言いつつも、この協議会を運営しているNPO法人YUVECの皆さんにはいつも感謝しております。
今回の講演の内容を簡単に紹介しておきたいと思います。
主催者挨拶
当協議会理事長の太田健一郎先生(横国大名誉教授)が30分ほど話をされました。日本技術士会化学部会での8月の講演では「グリーン水素への展望」と題して講演して頂いたばかりで、会場に着いたときにご挨拶させていただきました。技術士会の他の部会で近々講演が予定されているそうで、水素エネルギーへの関心が益々広まっていると感じます。
さてこの日の話ですが、先日の化学部会での講演では聞けなかった話が聞けました。アルゼンチンのパタゴニア地方での風力発電による水素製造を行うための事業化調査を進めているのですが、現地の様子の写真が紹介され、実際の風力調査等の話をされていました。
原発などは早々に止めて、水素エネルギー普及のために尽力したいという太田先生の話を聞くたびに、自分も何かしなければという思いになります。先日の化学部会の講演では、最後のスライドにかわいいお孫さん三人が写っている写真を見せて、この子どもたちが将来生きていく時代のために今やるべきことをしたいという主旨の話をされていました。本当に心から同意いたします。これからずっと先の世代の人類のために、どんな社会を残すべきなのか、そしてそのためにどんな技術を培っていくべきなのか、我々の世代はもっと真剣に考えなければいけないと思います。
講演1「水素・燃料電池自動車の安全性について-日本自動車研究所の取り組み-」
FC・EV研究部安全研究グループの田村陽介氏からは、水素・燃料電池に関する国内法規制の話と、日本自動車研究所(JARI)の城里テストセンターでの様々な安全性試験の様子が紹介されました。試験の様子を動画で見せていただいたのは非常にわかりやすかったです。(一部の映像は、相模原インキュベーションセンターでだいぶ前に開催された燃料電池関係の講演で見た記憶があります)
燃料電池自動車には70MPaの高圧水素タンクが搭載されていて、非常に危険視する人も多い様ですが、水素は非常に拡散が速いため、火災になった時は水素よりもガソリン車の方がよほど危険であることが映像を見ると分かります。このような映像を基に、もっと水素の安全性について啓蒙して頂きたいと思います。
講演2「水素社会に向けた日立の取り組み」
水素事業推進室の筒井宏氏から、日立における水素関連事業の具体例が紹介されました。私の勉強不足でしたが、トルエンに水素を付加させたメチルシクロヘキサンを水素キャリアとする事業を進めているのは千代田化工関連だけだと思っていたら、日立でも独自に水素化・脱水素化触媒の開発も含めて試験を行っているとのことでした。さらに、昨年秋に福島産総研の再生可能エネルギー研究所(FREA)の見学会に参加した際、トルエン-メチルシクロヘキサンの試験プラントを見たのですが、この試験プラントはてっきり千代田化工のものだと思っていたら、実は日立製だということがこの日の講演で分かりました。
講演後に少し質問させていただいたのですが、メチルシクロヘキサンから取り出した水素の中にはトルエンもわずかに混入してくるらしく、そのまま燃料電池(特に固体高分子形)へは使えないとのことでした。アノード触媒が被毒されるためですが、精製器を間に入れるとコストがかかるため、発電はディーゼル発電機で行っているそうです。メチルシクロヘキサンの生成率が低いデータがあったので、そこについて質問したところ、開発者でないので詳細は分からないとかわされてしまいましたが、一部のトルエンはメチル基が取れたりなどの副反応は起こり得ると思われます。また、脱水素時は吸熱反応のため、その熱源をどうするかはプラント設計時の大きな課題と思われます。
上手く利用できる技術になると、太田先生が進めているパタゴニアで作った水素をメチルシクロヘキサンの形で大量輸送という道筋が見えてくると思われます。
講演3「水素社会への道」
内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム「エネルギーキャリア」のサブプログラムディレクターである塩沢文朗氏の講演でした。全体のエネルギー状況のデータをきちんと把握したうえで説明されており、水素エネルギーを増やすためにどうすべきかの説明は説得力があった。日本における水素関連研究開発の全体像を示した図は、日本の現状を俯瞰するうえで大変分かりやすいものでした。
講演の最後には、水素キャリア―としてのアンモニアに関する技術紹介でした。ここ数年、アンモニアを燃料として発電する研究開発の話を展示会や報道などで見聞きしていたので、自分にとっては特に目新しい話ではありませんでしたが、アンモニアを作る側の技術課題はまだ多く、現状ではどの様な開発が進んでいるのか質問させてもらったのですが、やはりそこは良くご存知で、いくつか事例を紹介して頂き、アンモニア合成の新しい触媒(東工大の細野先生が開発したエレクトライド触媒)の事もご存知で、そこまできちんと把握されていることに感銘しました。とはいえ、やはりアンモニアを作る側はまだまだ多くの課題があり、今後の技術の進展に期待したいと思います。
この協議会のセミナーは、これまで参加費無料で行っていたのですが、さすがに資料の印刷費用などが大変になってきているようで、次回あたりから資料代として少し徴収するようになりそうです。他に参加している研究会で参加費無料のところも、資料代を徴収するようになってきているので、その程度の経費を負担するのは参加者としては当然かと思います。営利目的で行っている団体ではないですから。
この日の講演の概要でした。